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広島地方裁判所 昭和58年(行ウ)2号 判決 1985年3月07日

原告

小島露

被告

廿日市税務署長

秋山和美

右指定代理人

菊池徹

外二名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五六年一〇月三一日付でなした原告に対する別紙(一)記載の昭和五一年九月分より昭和五五年二月分までの各月分にかかる物品税及び無申告加算税の賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は昭和二三年以来撮影用小道具を製作している者である。

2  被告は、昭和五六年一〇月三一日、原告に対し原告が製造(作)し昭和五一年九月から昭和五五年二月までに移出した製品(以下「本件製品」という)が物品税法一条別表の第二種一三「家具類」のうち「いす」又は「腰掛け」にあたるとして、別紙(一)記載のとおり物品税及び無申告加算税の賦課決定処分(以下一括して「本件処分」という)をした。

3  これに対し、原告は直ちに被告に異議申立をしたが、被告は昭和五七年三月一六日これを棄却したので、原告はさらに広島国税不服審判所長に審査の請求をしたところ、同所長は同年一二月二一日付でこれを棄却する裁決をした。

4  しかし、本件処分は次の理由により違法である。

(一) 本件製品は物品税法一条別表第二種一三「家具類」の「いす」又は「腰掛け」に該当せず、仮にそうでないとしても物品税法九条、同法施行令六条二号所定の非課税物品に該当するもので、本件処分はこれらの解釈適用を誤つたものである。

(二) 被告は多年にわたり本件製品には全く課税してこなかつたものであり、このような特定の事実状態が長期にわたり継続することにより原…被告間には本件製品は課税物品ではないとの法的確信が生ずる状態にまでなつていたのに、一片の通達により右取扱いを変更することは、法的安定性に反するもので、許されないことである。

(三) 原告は大東亜戦争で後頭部、上半身及び左腰に受傷し、戦後社会に出て就職もできないため家内事業として本事業を営んできたものであるところ、本件物品税は原告の実質的な利益の中から支払うほかなく、二〇%もの高率による本件課税は原告の生活権を侵害するもので、憲法二五条に違反する。

(四) なお、本件無申告加算税の点は、原告も同種事案の別件で裁判中(一審広島地方裁判所昭和五四年五月二九日判決言渡、二審広島高等裁判所昭和五七年四月二六日判決言渡、現在、最高裁判所に上告中)であるため、本件物品税を申告することは被告の主張を認めたことにもなり、申告しなかつたものであり、国税通則法六六条一項所定の「正当な理由」ある場合に当り、右賦課決定は不当である。そしてなお、当時、原告と、被告の前矢野署長らとの間では、同署長の任期中は裁判終了まで、物品税及び無申告加算税の課税を延期する旨の話し合いが成立していた。

よつて、原告は被告が原告に対してなした本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  認否

(一) 請求原因1の事実は認める。但し、原告が製造、販売(移出)した撮影用小道具であるいす、腰掛けは、物品税法上の課税物品である「いす」「腰掛け」に該当する。

(二) 同2の事実は認める。

(三) 同3の事実中、広島国税不服審判所長が原告の審査請求を棄却する裁決をしたのは昭和五七年一二月一七日で審査裁決書の送達日が同月二一日であることのほかはすべて認める。

(四) 同4のうち、原告主張のとおり裁判中であることは認め、その余の事実は否認し、その主張は争う。

2  主張

(一) 物品税法一条は、「別表に掲げる物品には、この法律により、物品税を課する。」と定めており、物品税法基本通達の四条の別表第一「課税物品の取扱いに関する通則」の一条は、「物品が法別表(課税範囲)に課税物品表に掲げる物品に該当するかどうかは、他の法令による名称及び取引上の呼称等にかかわらず、当該物品の性状、機能及び用途等を総合して判定する。」と定めている。本件製品は、原告が主張するように写真館における写真撮影の際被写体にポーズをつけるための撮影用小道具として製造されたものであつても、構造的にはいすあるいは腰掛けとしての形態及び要素を備えており、また機能ないし用途の点をとらえても、被写体(人物)が座つて撮影する場合が多く、いすあるいは腰掛けの役割を十分果しているのであるから、物品税法一条別表の第二種一三の「家具類」のうちの「いす」又は「腰掛け」に該当する。

ところが、原告は本件製品は「いす」「腰掛け」に該当しないとして、物品税法三五条二項に定める営業開廃申告書を提出せず、同法二九条二項に規定する本件製品を移出した月分の納税申告もしなかつた。そこで、被告は昭和五六年一〇月三一日付けで、別表(一)記載のとおりの物品税及び無申告加算税の賦課決定処分をしたものであり、被告の行つた本件処分はいずれも適法である。

(二) 原告は被告の本件処分が憲法二五条に違反すると主張しているが、被告は租税法律主義に基づき適正な課税処分をしたもので、憲法二五条に違反するものではない。

(三) 本件無申告加算税の点につき、国税通則法六六条一項ただし書における「正当な理由」とは、交通、通信の途絶、通信機関の事故、あるいは納税義務者の重患等による意思又は身体の自由の喪失といつた期限内申告が不能か全く期待できない客観的に宥恕すべき特別の事情が存する場合をいうものと解すべきであつて、原告のごとく現行法上適用しがたい独自の見解に固執して訴訟を提起遂行中であるような場合は含まれないというべきである。

三  被告の主張に対する原告の反論

1  本件製品は、物品税法一条別表の第二種一三の「家具類」の「いす」「腰掛け」とは以下の点で異なるから、物品税法上の課税物品に該当しない。

(一) 右家具類のいす、腰掛けとは、安楽性を求めて製造販売されるものである。本件製品は、型だけが類似しているというだけで、たとえ座ることがあるにせよ、それは専らポーズを付けるためのものであり、その構造、機能及び利用目的等いずれの面からも、全く安楽性を求めたものではない。

(二) 物品税基本通達四条の別表第一課税物品の取扱いに関する通則一三家具類―二一は「長椅子とは、通常二人以上が並んで使用するいすとして取引されるものをいう」と規定する。この規定はいすの定義を定めたものであり、仮にそうでないとしても、他に定義を定めた規定がなく長いすとしての説明を明確に示している以上定義と同等の効力があると解するのが相当であるが、本件製品は撮影用小道具でありいすとして取引したことは一度もない。

(三) いすとはその使用に耐えられるだけの能力を有していることが必要であるが、使用に耐えられるとは、その目的物をその目的に従つて最大限に利用し一〇年間位は使用できることをいう。本件製品は写真館における写真撮影の際ポーズを付ける撮影用小道具として製造されたもので、一般に耐久性の点で劣り、とくに、多くの製品は脚部分に猫足(曲線)を使用しているが、猫足にすると、脚先端の曲線個所が木材の年輸の中心線から外れるため、前後左右の衝撃に弱く、耐久力に乏しい。

(四) 国税庁消費税課の作成した物品税取扱先例集は特殊な物品の課税上の取扱いを明確にしたものとみられるところ、本件製品を課税物品とするなら当然その右取扱いも明確に記載されていなければならないものと考えられるのに、本件製品はそこに記載されていない。したがつて、本件製品は課税物品とは考えられなかつたものとみられる。

2  仮に本件製品が物品税法一条別表所定のいす、腰掛けにあたるとしても、本件製品は物品税法九条、同法施行令六条二号(特殊な性状・構造又は機能を有することに基づき物品税を課さないこととされる物品)による非課税物品にあたる。すなわち、右同号による物品税法施行令別表の第二種一三家具類のうち、いす、腰掛け等の「非課税物品欄」には、「いすのうち、診療又は理容の用に供されるものとして特殊な性状等を有するもの」は非課税物品とするとされている。これは、営業の用に供され特定の場所で使用され特殊な性状等を有しておれば、非課税物品となるとの趣旨と解される。本件製品は、買主は写真館に限られ、使用場所は写場という特定の場所であり、特殊な性状、機能及び用途を有しているのであつて、非課税物品としての条件をすべてみたしている。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因12の事実について

請求原因1(但し、撮影用小道具の性質の点を除く)、同2の事実は当事者間に争いがない。

そして、<証拠>によると、本件処分の対象となつた物品は、別表(二)記載(写真)の物品(但し一三〇型は課税最低限の金額に満たないとの理由で除外)に類似した物品であり、そのうち、二二〇型、一二五型、三〇〇型、一一五型が物品税法施行令別表中の課税最低限の金額の関係での区分中「長いす」に、片袖取外し型が同区分中「腰掛」に、二八〇型、二一〇型、一五三型が「その他のいす」に、それぞれ該当するものとして課税されていることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

二同3の事実について

同3の事実中、広島国税不服審判所長が原告の審査請求を棄却する裁決をした日の点を除いて当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、広島国税不服審判所長が原告の審査請求を棄却する裁決をしたのは昭和五七年一二月一七日であることが認められ、これに反する証拠はない。

三そこで、まず本件製品が物品税法一条別表の第二種一三「家具類」のうち「いす」「腰播け」に該当するか否かを検討する。

1  <証拠>によれば、次の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  本件製品は写真館における写真撮影の際、坐位も含め、被写体に各種のポーズをつけるための撮影用小道具として製作されたもので、いずれも写真館の個別の注文と形状、デザイン等の要望に応じて製作されるものであり、買主はすべて写真撮影業者(写真館)のみに限られている。

(二)  本件製品の構造に当つては、第一にデザイン、第二に移動性(軽さ)が重視され、強度の点は比較的軽視されている。本件製品の多くは、写真の雰囲気を和らげるため脚の部分を猫足(曲線)で仕上げられているが、猫足は、その先端の曲線部分では脚の中心線が木材の年輸の中心からはずれるため、折れ易いなど一般のいす、腰掛けに比べて耐久力の点で劣る。

(三)  本件製品は、一般のいす、腰掛けに比べて、まず、足の線をきれいに出し、スマートなポーズをつけるため、座の高さが約四二センチから四五センチメートルとやや高く作られており、次に、坐つたときの姿勢をよく見せ、また坐つた姿勢とその後の立ち姿の二人を同時に撮影する際のピント合わせをよくするなどのため、座の奥行きを浅くし、背あての角度を少なくしており、そして次に、撮影の際、背もたれがあまり目立たないように、特に背もたれの角が写真に出ないようにするなどのため、背もたれが低く作られており、更に、撮影時、肘をついた際、片方の肩が極端に下がらないようにするため、肘あてを高く仕上げ、そして更に、いろいろな角度から撮影し、各種のポーズを付けられるように形状、デザインを工夫して作り、その他、被写体の動揺を防ぐなどのため、座席、背もたれの布張りには弾力性のあるクッションを用いていない。

(四)  本件製品の形式はいす又は腰掛けであり、その構造は、被告が「いす」と認定したものは脚部分、台座部分、背当部分の三つの部分から成るのに比し、「腰掛け」と認定したものは脚部分、台座部分の二つの部分から成る。本件製品は写真館において写真撮影の際ポーズを付けるための撮影用小道具ではあるが、本件製品に座つて撮影する場合も多く、腰を掛けることが予想されており、いす又は腰掛けの役割を十分果しうるものであることが必要であり、原告も、本件製品の完成時に脚部分の強度について自ら立つたり、腰を掛ける等により耐久力を確認の上販売している。本件製品は、大体三年ないし五年程度で流行等に伴い張り替えをしているが、通常の使用によつて容易に破損してしまうようなものではない。

2  ところで、物品税法は、その一条において「別表に掲げる物品には、この法律により、物品税を課する。」と定め、その別表第二種一三「家具類」(類別)のうちに「いす」「腰掛け」(品目)を課税物品として掲げている。そして右別表の「課税物品表の適用に関する通則」七によれば、同表における用語の定義は政令で定める、と規定しているが、物品税法施行令一条二項に基づく別表中定義欄には、「いす」「腰掛け」につき「いすには、わくのみのものを含むものとする」と定めるのみで、その定義を具体的に明らかにした規定は存在しない。

そこで、物品税法一条別表第二種一三「家具類」のうち「いす」又は「腰掛け」にあたるか否かは、その名称及び取引上の呼称等にかかわらず、当該物品の性状、機能及び用途等に照らし、客観的にかつ社会観念上通常の用語の意義に従つて理解すべきものと解され、「いす」又は「腰掛け」としての性状を有するものが、その本来の機能及び用途の外に、他の機能及び用途をも併有する場合は、他に特段の規定がない限り、「いす」又は「腰掛け」としての機能及び用途がほとんど無視し得る程度に著しい軽重をなすような場合のほか、右両者の軽重又は主従のいかんにかかわらず、右「いす」又は「腰掛け」にあたるものと解さざるを得ない。

このことから、前記認定事実に照らし考えてみるに、本件製品はたしかに、写真館における写真撮影の際、被写体に適切なポーズをつけるための道具の一つとして製造されたものであつて、その耐久性及び安楽性を比較的軽視し、写真撮影時の美的構成、その便宜、デザイン・移動性等を重視しており、一般のいす、腰掛けと比較して、いわば写真撮影用の小道具としての利用に重要な主眼のあることは否定しがたい。しかし、本件製品は、明らかにいすまたは腰掛けとしての通常の形状を有し、また、その利用も、多くの場合、被写体(人物)が本件製品に座つた姿勢を撮影するためのものであり、このことを予想して製作されているものであり、いすまたは腰掛けとしての役割も十分果しうるものである。たしかに、安楽性は、いす又は腰掛けの機能として最も重要な点であるとみられる。しかし、本件製品も、撮影時に、より楽な姿勢である坐位を確保し得るものであるという意味で安楽性がないわけではない。

このようにみた場合、本件製品は、その性状、機能及び用途に照らし、客観的にかつ社会観念上通常の用語の意義に従つた場合、物品税法一条別表第二種一三「家具類」のうち「いす」又は「腰掛け」に該当するものと解するに十分で、前説示のとおり、本件製品の機能及び用途の重点が、いわば写真撮影用の小道具という点にあるとしても、本来の機能及び用途も無視しがたいものであり、他に特段の規定もない本件製品については、右「いす」又は「腰掛け」としての解釈を否定しがたいものといわざるを得ない。

3  なお、原告は、物品税法基本通達四条別表第一課税物品の取扱いに関する通則一三「家具類」―二一が「長いすとは、通常二人以上が並んで使用するいすとして取引されるものをいう」としていることから、本件製品は撮影用小道具でありいすとして取引したことはないから、課税物品にあたらないと主張する。しかし、右は、いすについての課税最低限の金額を適用するに当つて「長いす」と「その他のいす」とを区別するためのものであつて、「いす」の定義を直載に定めたものではないとみられる上、本件製品は、前説示のとおり撮影用小道具ではあつても、他面、物品税法上の「いす」にあたり、いすとして取引されるものに該当し、原告の右主張は採用できない。

また、原告は特殊な物品の課税上の取扱いを明確にしている物品税取扱先例集(昭和五二年一月、国税庁消費税課作成、乙第二号証)に本件製品が記載されていないことから、本件製品は課税物品ではないと主張する。しかし、<証拠>によれば、原告と似たような、写真撮影の際ポーズを付けるいす、腰掛けを作つている業者は全国でも僅少であり、原告以外には、今まで課税物品にあたるかどうかの点で争われた例もないことなどから、右先例ともならなかつたものと推知されなくもなく、右物品税取扱先例集に掲載されていないことから課税庁が課税物品としない趣旨であつたともいえず、いずれにしても、原告の右主張も採用できない。

四次に、原告は、本件製品は物品税法一条別表第二種一三「家具類」のうち「いす」又は「腰掛け」にあたるとしても、物品税法九条、同法施行令六条二号による非課税物品にあたると主張するので、その点について判断する。

物品税法九条は、同法一条別表の課税物品にあたる物品であつても、「特殊な性状、構造、若しくは機能を有することにより、一般消費者の生活及び産業経済に及ぼす影響を考慮して物品税を課さないことが適当であると認められるものとして政令で定めるものについては、物品税を課さない」と定め、これにより、同法施行令六条二号、同別表第一の第二種一三「家具類」のうち品目欄「いす」又は「腰掛け」関係の「非課税物品欄」では、右物品税を課さない物品として、「いすのうち、診療又は理容の用に供されるものとして特殊な性状等を有するもの」、右「品目欄に掲げる物品のうち、桐製又はうるし塗りのもの」を定めている。

これらの規定の態様及び内容等からすると、右非課税物品は、物品税法九条所定のものとして「政令で定めるもの」に限られるうえ、その政令別表第一中における右非課税物品欄の規定は、右所定のものとして例外的に課税されないものを具体的に限定列挙したものと解されるところ、本件製品は右非課税物品欄に掲記されていないのであるから、非課税物品とは認められない。

したがつて、原告の右主張は理由がない。

五請求原因4(二)(法的安定性に反する旨の主張)について

前説示のとおり本件製品が物品税法所定の課税物品にあたるものである以上、仮に多年にわたり同種製品に課税しない事実があつたとしても、そのことにより右課税はなんら妨げられないところで、原告のその余の主張事実は証拠上肯認しがたく、原告の右主張は採用できない。

六請求原因4(三)(憲法二五条違反)の主張)について

憲法二五条一項は、個々の国民の具体的、現実的な権利を明らかにしたものではないから、憲法上是認される物品税法の正当な解釈適用に基づきなされた課税処分により原告の具体的な生活上の利益を損なうことがあつたとしても、右処分につき、憲法二五条の違反を生じない。原告の右主張も採用できない。

七無申告加算税について

1  前説示のとおり、本件製品は、物品税法一条別表第二種一三「家具類」のうち「いす」又は「腰掛け」にあたるのであるから、その製造者である原告は、物品税法二九条二項に基づき、製造移出した課税物品について所定の期限内に物品税に関する申告書を所轄税務署長に提出しなければならないものであり、右申告書の提出をしなかつた場合には、国税通則法六六条一項に基づき無申告加算税が課されることとなる。

2  原告が右所定の申告書を提出しなかつたことは当事者間に争いのないところであるが、原告は、そのことにつき、国税通則法六六条一項ただし書所定の「正当な理由」があつた旨主張しているので、検討してみる。

(一)  原告が、同種事案の別件で裁判中(一審広島地方裁判所昭和五四年五月二九日判決言渡、二審広島高等裁判所昭和五七年四月二六日判決言渡、現在最高裁判所に上告中)であることは当事者間に争いのないところ、さらに、<証拠>によると、右別件の裁判は、原告の製造にかかる昭和四六年四月から同五〇年一月までの本件類似製品につき、被告が昭和五一年五月二〇日付でなした原告に対する物品税及び無申告加算税の賦課決定処分に対し、原告が右製品は物品税法所定の「いす」又は「腰掛け」にあたらないとして右処分の取消を求めて争つている事案であり、右一、二審とも原告の主張が認められなかつたものであること、右処分の前に、被告税務職員が何回もその税務調査のため原告宅に訪れていること、本件についても、原告が物品税の申告をしないため、被告関係職員において昭和五五年二月ころから所要の税務調査をし、本件処分に至つていることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(二)  原告は、右裁判中であるのに本件製品につき物品税の申告をすることは、その課税を認めたことになるので申告しなかつたものであり、申告しなかつたことにつき「正当な理由」があると主張する。

しかし、右申告をすることが、直ちに物品税の課税を認めたことになるとはみられず、申告した後でも裁判その他で争う途が閉されるわけではない。

ただ、たしかに、課税物品にあたるか否か税務当局との間に見解の相違がある場合、納税者が自己の見解に従つて期限内に申告しなかつたならば、常に無申告加算税を課されるとするのは妥当でない。このような場合、一般には、納税者の見解が現行法のごく通常の解釈として相当程度の合理性を有する場合で、税務当局の見解に従つてまず納税すべきものとするのが著しく妥当性を欠くとみられるような場合には、右申告にしないことにつき「正当な理由」があると解することもできよう。

そこで、右により、前認定等の事実に照らし本件につき考えてみるに、原告の主張は、たしかに、「いす」又は「腰掛け」の性状についての重要な点(安楽性)の指摘を含むものではあるが、本件製品の形状、機能及び用途からするごく通常の理解は「いす」又は「腰掛け」であり、原告の主張は、写真撮影の場で利用される道具の一つという点を著しく強調する独自の見解とみざるを得ず、結局、原告の見解は、物品税法の文言等からするごく通常の解釈として相当程度の合理性を有するものとは認められないうえ、物品税の性質その他前認定の課税経緯等の諸事情に照らした場合、原告において本件申告をすることが著しく妥当性を欠くものとも認められない。

したがつて、右の点で「正当な理由」があるものとすることはできず、原告の右関係の主張は採用できない。

(三)  なお、原告は、被告の前署長らとの間で、その任期中は裁判終了まで物品税及び無申告加算税の課税を延期する旨の話し合いが成立していたような主張をしている。しかし、<証拠>に照らすと、原告と被告の前署長との間に右課税延期についての折衝のあつた経緯及びその際、被告の前署長が原告に対し、事実上、現実の課税を、できる限り待ちましよう、といつた程度の応答をしたような事実はうかがわれるが、右合意が成立したとの事実は認められず、他にこれを肯定せしめるに足りる証拠もない。

そうだとすると、右程度の応答が原告の無申告を正当化するものともみられず、右関係では、さらにその余の点につき検討するまでもなく、原告の右主張も理由がない。

(四)  その他、原告が本件申告書を提出しなかつたことにつき、「正当な理由」があることをうかがわせる事実は証拠上認められない。

八以上各認定説示したところのほか、<証拠>によると、本件各処分の具体的内容として、別紙(一)記載のとおりの事実が認められ、他に右認定に反する証拠はなく、その他、本件物品税及び無申告加算税の賦課決定処分を違法ならしめる事実も認められず、本件各処分は適法なものといえる。

九以上によると、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(渡辺伸平 吉岡浩 窪木稔)

別紙(一)、別紙(二)<省略>

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